古唐津の魅力について
古唐津の魅力とは
唐津焼きの魅力
作り手八分、使い手二分といわれるように、使われることで完成する。
藁盃茶碗(奥高麗)唐津焼は、「砂目(すなめ)」と呼ばれる粗くざっくりとした土味と渋い色調が特徴であり、これが素朴さ、温かさ、力強さという唐津焼の魅力を表しています。
また、唐津焼は「作り手八分、使い手二分といわれるように、使われることで完成する」焼き物であると言われています。
それは、唐津焼が料理を盛ることで完成する芸術品であり、“用”のための器であること、また、使うほどに土色が変化し、貫入(釉薬に発生するヒビ割れ)が入ることで味わいが増し美しくなり、それが唐津の魅力の一つです。
唐津焼のはじまり
古唐津 鉄釉沓茶碗唐津焼の起源については諸説ありますが、現在では室町時代から桃山時代にかけて岸岳(きしだけ)城を居城とした松浦党領袖、波多氏の加護のもと、日常に使う壺や皿、徳利等の雑陶を中心に焼かれていたのがはじまりとされています。
唐津焼の創始期である16世紀後半から、慶長元和年間の最盛期を経て、衰退期に転ずる17世紀半ば頃まで、約70年間にわたって生産された唐津焼をとくに「古唐津」と呼ばれています。
このホームページ上でもこの時代のものを「古唐津」と標記します。
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陶片の価値
陶片収集の功罪。
古唐津陶片出光美術館は世界に冠たる陶片の収集で知られています。
戦後復興の過程で、巨万の富を掌中にした出光佐三は、無類の「やきもの好き」でもあり、巨額の資金がその収集に注がれました。
出光美術館の陶片収集が本格化すると、世界の陶片市場は暴騰へと転じ、陶片成金をも生み出してしまいました。
やがて、陶片ブームは加熱し、見所のある陶片の方が、完品よりもはるかに高額という現象も引き起こてしまいました。
いまでは、文化財保護法があり、盗掘は犯罪となっていますが、その当時は至る所で発掘(盗掘)が行われていたそうです。
陶片派と呼ばれる人々
古唐津陶片北大路魯山人、荒川豊蔵、中里太郎衛門 (十二代)、西岡小十とつづく陶片重視派と、これを理論的に支え、自らも陶片至上主義を貫いた小山富士夫らを陶片派と呼んでいます。
また、スポンサーとして『昭和の桃山復興』に大きな枠割りを果たした川喜多半泥子は、陶片を深く観察して作品にそれを反映させています。
陶片から、様々な情報を収集し、断面を観察することによって、土とか厚さ、釉薬のかかり具合な勉強になります。
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古唐津の魅力について
古唐津は素朴な焼き物で、美しい色彩、形姿、精緻な絵模様は見られない地味で平凡な焼き物です。
それでも、古来より珍重されてきました。
それは、日本人独特の焼き物への感性が独特の美意識をもって賞翫しているのでしょう。
特に古唐津においては「景色(けしき)」「土味(つちあじ)」「手ざわり」「映り(うつり)」「古色(こしょく)」の要素をより強い魅力をひきだしています。
古唐津の5つの魅力について
景色(けしき)
釉薬の流れ、釉薬を掛けたときの指跡などを見所とする。
陶磁器において「景色」という言葉を用いるのは日本だけだそうです。
この「景色」は、成型中や、釉薬がけなどの作業中、あるいは焼成中に、当初から計画したと言うよりも、偶発的に起こってくる様々な変化を見所とするもので、人工的でない自然な美しさを日本人は愛翫しています。
古唐津の中に、成型中に図らずともついた指跡や、牛ベラを誤って落としてついた傷跡などを残したまま焼成した作品を見たことがあります。
当時の陶工達の「もったいない心」や「遊び心」などが伝わってくるような気が致します。
土味
土味とは、焼き物の原料である土そのものの個性、その味わいを吟味する美意識です。
土味に該当する外国語はなく、この美意識が日本だけのものであることを物語っています。
数多い焼き物の中で、「唐津」は特に土味が愛でられています。
「ざんぐりとした砂目の明るい土味」
「キツネ色に発色した緻密な土味」
「カラリと良く焼けた密度の高い土味」
「赤褐色の艶のない土味」
「明るい黄褐色のきめ細かな土味」
「明るい淡褐色に緋色の濃淡がでている土味」
など唐津の土味は様々です。
地域も、岸岳・松浦・武雄・平戸・波佐見・山瀬などその土味は多彩で、それぞれの個性を主張しています。
最近の古唐津の研究では、古唐津は粘土ではなく、砕いた石を 原料にしているのではないかと考えられています。
これは唐津市周辺に砂岩が大量にあるからです。
ここから質の良い土を取り出して使っていたのではないかと言われてきています。
この話は、
「唐津 やきものルネサンス (とんぼの本)」 青柳 恵介、荒川 正明、川瀬 敏郎、 西田 宏子や
「唐津焼 (NHK美の壺)」 NHK「美の壺」制作班の中でも語られています。
手ざわり
全体が滑らかな肌と曲面を持ち、掌に心地よさを感じます。
「手ざわり」は指先に感じる表面状態の荒さや滑らかさ、掌に感じる全体の形、また重さなどの感覚です。
主に使用することによって感じることができますが、見た目からもその柔らかさを感じ取ることができます。「見た目と手ざわり」は古唐津の美しさの一つではないでしょうか。
古唐津は、稜線がすべて曲線であり、角型の器でも丸みを帯びています。
そのため、手ざわりもごく滑らかで、おもわずなでたくなるような曲面であって、穏やかで、心を苛立たせることがなく、茶碗やぐい呑みなども口当たりが柔らかくできています。
日本酒などは唐津のぐい呑みで頂くと唇に心地よさが残って数杯余計にすすみますね。
また、重さも見た目より重たい物が多く、掌にずっしりとした安定感をもたらします。
このあたりも古唐津の魅力の一つではないでしょうか。
古色
長年の使用により、地色が深みのある色に育っていきます。
「雨漏り」※というと李朝の粉引きや堅手に出るものと思われていますが、唐津の伝世の中にも雨漏りの出たものがあります。
「雨漏り」は古唐津の長い伝来の証であり発掘品では愛用の期間が短いために、「雨漏り」はほとんど見られません。
古唐津の場合は粉引きや「堅手」※のように白い器肌ではなく、その胎土は灰色ないし褐色の色を持つため、「雨漏り」があまり目立ちません。
唐津は使うことに依って経年変化をきたし、最初の姿とは見違えるような景色や味わいを身につけていきます。
このような変化を「育つ」「育てる」といって、唐津の楽しみの一つですね。
ぐい呑み育て方は、
「酒を手にとり、肌や高台をなでながらしみこませます。
日々お酒で磨くことで 肌につやが生まれます。
酒と器を一緒に味わう。
それが唐津焼の大きな魅力です。」
引用 「唐津焼 (NHK美の壺)」 NHK「美の壺」制作班
「雨漏り」以外にも「貫入」じみや、胎土に酒などがしみ込むことにより地色全体が色づき育つというものも良くある現象で、ぐい呑みや徳利ではほとんど目立つ古色が見られなくてもトロリとした肌合い自体が古唐津ならではの古色です。
「時間が熟した果実」という表現が古唐津には似合っていますね。
※雨漏りとは李朝の粉引や堅手茶碗に象徴されるように、あたかも器が雨漏りをしているように見えることから名づけられました。
雨漏りといえば、李朝時代の粉引茶碗「銘 蓑虫」が有名ですね。
※堅手は、素地や釉が堅いためつけられた名称で、そのほとんどが所謂白磁の茶碗である。白い磁胎に透明釉をかけて焼いたもので、同じ白い茶碗であっても、鉄分を含んだ陶土に白化粧を施して透明釉をかけた粉引きや無地刷毛目とは異なっている。 釉調は、白く焼きあがったもの、灰青色を帯びたもの、淡黄褐色をしたものなど、雨漏堅手は、やや焼上りが柔らかいためか、白い釉膚に雨漏りのしみのような景が生じた茶碗である。これは長い年月使用したためにできたもので、ほとんどのしみが貫入や気泡などから広がり、景をなしている。(世界陶磁全集19李朝 小学館 P.273より)
映り
「映り」というのは、器がそれ1個で完結するのではなく、より大きく他のものとの関わりの中に美を見いだすという、これも日本人独特の感性ですね。
器が関わるものに「花」「料理」「酒」「他の器もの」があります。
これらの「他」のものに対する「映り」が古唐津は良く馴染みます。
その形も、色も、文様も、強い主張が無く、「他」を引き立てて、しかも自らをその相手によってより美しく、より味わいよく見せてくれるのが古唐津の魅力です。
茶映り
抹茶をより美しく見せるのが茶映りです。
茶碗の極地といわれる井戸茶碗などはその枇杷色(びわいろ)といわれる色調や魚子(ななこ)貫入の分厚い器面などが抹茶をより一層おいしく見せています。
花映り
華やかな色彩や文様のある花瓶に花を生けると花と花入れがぶつかりあい、その美しさを相殺してしまいます。
花をより美しく見せるには、色彩が競合しないよう控えめな古唐津の花入れが似合います。
酒映り
「酒映り」という言葉はありませんが、いかにも酒を旨そうに飲ませる徳利や片口、盃やぐい呑みがあることは確かです。
それがその場にあるだけで座が和み、楽しくなる雰囲気を持っています。
また、酔い心地のよい器というのもありますね。
料理
料理を引き立たせるのも器です。
食べ物の素材の色を引き立たせるのが日本料理の特質とするならば、その器は花に対する花入れと同じ美学ですね。
取り合わせ
これは、他の器物や道具との取り合わせの中で、いかにしっくり馴染むかということで、特に古来より茶会の道具の取り合わせはやかましく吟味されてきました。
あまり突出せず、また引き過ぎもしないでそれぞれの個性を主張するというのが日本の美学です。
骨董の中でも「玄人好み」と称される古唐津の人気が高まっています。
茶陶や酒器などの魅力の原点を、土味や釉薬の手法、絵付けなどから、多角的に分析する愛玩者のための決定版です。
野育ちなれど格調高し、古唐津。身近に置いてじゃまにならず、自己主張をせず、いつの間にかその滋味に包まれ手放したくなくなるやきものと出川さんがいう通り、古唐津の魅力ををたっぷり楽しめます。
この本で、古唐津の魅力が身近に感じることができました。
古唐津の真贋について
斑唐津の立ちぐい呑も、ホンモノはきわめて稀である。
「やきものの真贋と鑑定」(出川直樹著)の本にこんな記事があります
「唐津は日本の古陶磁の中でもきわめて人気が高く、また経済的な価値も高く、しかもその作風が精緻な技術をともなわずすぐに真似されるので、きわめて贋物の多い分野である。
古陶磁の本や図録で見慣れていて、しかも雑器として無数にあつたというイメージがあるだけに、手近にあり入手できるとゆう錯覚をもつものが唐津には多い。
たとえば抹茶碗として適した大振りの絵唐津はいかにもたくさんありそうだが、美術館や所蔵家の何点か以外は、まずない。
又ちょうど酒器に手頃な二合前後入る朝鮮唐津の徳利などもほとんどない。
斑唐津の立ちぐい呑も、ホンモノはきわめて稀である。
これらはよく本や図録でみるうえに、あちこちで写しをみかけるので、ついあるものと思いこんでしまうのである。
これらについては各々出回っている数の百分の一いかがホンモノの確率とみて間違いない。」
とあるように、古唐津は「ニセモノ」がたくさんあります。
つまり、贋物伝世」もたくさんあると言うことですね。
「やきものの真贋と鑑賞」(出川直樹著)
唐津焼きは、壊れやすい陶器で、日常品が今あることが不思議ですね。
徳利は97%発堀品だそうで盃にいたっては99%発掘品とのこと。
未だに「本物」と「ニセモノ」の違いがよくわかりませんね。
引用 古陶磁 真贋鑑定と鑑賞
贋物をつかまされたくない人に鑑定の実際を具体例で示しています。
この本を読むと骨董の世界は本当に恐ろしいと感じます。
しかし、この本を隅から隅まで読んでどんなに勉強したところで、だましのプロにかかったら、イチコロだと思いますね。
「日本人独自の感性」は共感を覚えます。
主な参考文献
「古唐津に魅せられて」を作成するにあたって参考にした書籍等
このサイト「古唐津に魅せられて」を作るに当たっては、たくさんの書籍や文献を参考にしました。
書店で購入した本、インターネット(AmazonやYahoo)で購入した本、友人から借りた本、図書館から借りた本など色々あります。
今は、便利な世の中になったもので、自宅から欲しい本を探してインターネットを通じて購入できるようになりました。それも自宅まで届けてくれます。
このサイトで参考にした書籍(インターネットで購入できる分)の一覧表を作ってみました。
唐津焼や古唐津に関する文献
たくさんの本の中から古唐津や唐津焼きに関する情報を集めました。
- 「唐津 (日本陶磁大系)」 中里太郎右衛門
- 「唐津の歴史と陶技」愛蔵版日本のやきもの 中里太郎右衛門
- 「古唐津」古唐津 (1973年) (出光美術館選書〈6-7〉) 水町 和三郎
- 「唐津概説」日本の陶磁 5唐津 林屋晴三
- 「肥前陶磁」考古学ライブラリー55 大橋康二
- 「肥前の唐津」平凡社陶器全集3
- 「唐津」平凡社陶磁体系13
- 「唐津」日本の陶磁 中央公論
- 「唐津」日本陶磁体系改訂版 平凡社
- 「昭和の桃山復興」東京国立近代美術館
- 「小山富士夫の眼と技」朝日新聞社
- 「唐津焼」出光美術館 小山冨士夫
- 「土と炎―九州陶磁の歴史的展開―」佐賀県立九州陶磁文化館
- 「古唐津展」佐賀県立美術館
- 「古唐津と出光美術館 (1983年) (朝日・美術館風土記シリーズ〈14〉)」 朝日新聞社
- 「骨董をたのしむ (37) (別冊太陽)」 出川 直樹 (ムック)
- 「唐津焼の研究」 中里 逢庵
- 「唐津焼 (NHK美の壺)」 NHK「美の壺」制作班
- 「唐津 やきものルネサンス (とんぼの本)」 青柳 恵介、荒川 正明、川瀬 敏郎、 西田 宏子
- 「炎芸術 NO.89 唐津七彩」
- 「酒器をつくる―備前の徳利、唐津のぐい呑み 」『つくる陶磁郎』編集部
- 「武雄古唐津系陶芸技法調査記録」佐賀県文化財調査報告書第27集