ぐい呑みは手の中で育つ:使い込むほどに増す「味」の楽しみ

古唐津の魅力・陶芸の魅力 ぐい呑み
Charm of Old Karatsu and Ceramic Art
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唐津焼のぐい呑みは、単に酒を飲むための道具ではなく、使い手の手の中で長い年月をかけて変化し、完成へと向かう「生きている器」です。この変化を愛好家たちは「育つ」と呼び、その過程にこそ、他のやきものにはない格別な楽しみを見出しています。

1. 「育つ」仕組みと「景色」の変化

唐津焼のぐい呑みが使うほどに味わいを増すのは、その吸水性のある土味(つちあじ)と釉面の貫入(かんにゅう)に秘密があります。

  • 貫入への染み込み: 使い込むうちに、酒や茶の成分が釉薬の細かいひび割れ(貫入)に染み込み、器の表面に「雨漏り(あまもり)」と呼ばれる独特のしみが現れます。これは永い伝来と愛用の証であり、新品のときにはなかった深みのある表情(景色)を器に与えます。
  • 肌の潤いと色気: 焼成がしっかりとなされた器ほど、酒が馴染むことでしっとりとした落ち着いた肌合いになり、みずみずしい艶(つや)を増していきます。使い手たちは、これを「器が色気を増す」、あるいは「器が酔う」と表現し、晩酌の相棒として慈しみます。

2. 「用の美」:使い手が完成させる器

唐津のぐい呑みの真価は、店で買った瞬間ではなく、日々の食卓で使われることで発揮されます。

  • 八分と二分: 昔から「陶工が八分作り、使い手が二分を補って器を育てる」と言われてきました。作り手が込めた想いに、使い手が過ごした時間の重みが加わることで、初めてその器は完成します。
  • あと一万杯: 古唐津の愛好家の間では、「あと一万杯飲めば、この器は完成する」という言葉が交わされることがあります。このように、気が遠くなるような回数の晩酌を共に重ねることで、器は単なる物質から、持ち主の人生の記憶を染み込ませた唯一無二の存在へと昇華していくのです。

3. 器を育てる愉しみと作法

より深い「味」を引き出すために、愛好家たちは独特の作法を楽しみます。

  • 最後の一滴で愛撫する: 徳利に残った最後の数滴を手のひらに受け、それで器をなでるようにして酒を馴染ませる方法があります。こうした日々の積み重ねが、器に得も言われぬ古色(こしょく)を纏わせるのです。
  • 手ざわりと口当たり: 唐津の土は砂気が混じった「ざんぐり」とした質感が特徴ですが、使い続けることで高台まわりや口縁部が滑らかに「枯れ」ていき、手や唇に吸い付くような心地よい感触へと変化します。

唐津のぐい呑みを育てることは、「気心の知れた友人と長い年月をかけて語り合い、互いの信頼を深めていくプロセス」に似ています。最初はそっけなかった土の肌が、あなたの注ぐ酒を吸い、手のぬくもりを感じるたびに、少しずつその心を許して美しい表情を見せてくれるようになる