唐津焼の真髄「叩き技法」:内側に残る青海波文様の秘密

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Charm of Old Karatsu and Ceramic Art
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唐津焼の大きな特徴の一つである「叩き(たたき)技法」は、主に壺や甕(かめ)、水指、徳利などの「袋物」を成形する際に用いられる伝統的な成形法です。この技法によって作られた器の内側には、美しい同心円状の「青海波(せいがいは)状文」が残されており、これは唐津焼の真髄とも言える技術の結晶です。

以下に、その技法の詳細と内側に残る文様の秘密について解説します。

1. 叩き技法の工程と仕組み

叩き技法は、単に形を整えるだけでなく、土を締め、器壁を薄く、かつ強固にするための高度な技術です。

  • 紐作りから始まる成形: まず轆轤(ろくろ)の上に粘土の紐を積み上げて円筒状の形を作ります(紐作り)。
  • 内外からの打圧: 器の内側に「あて木(別名:ときや、トキャー)」を添え、外側から木製の「叩き板(別名:シュレー)」で叩き締めます。
  • 薄さと軽さの追求: 水引きによる轆轤成形よりも器壁を薄く伸ばせるため、見た目よりも驚くほど軽く仕上がるのが特徴です。これは、かつて参勤交代などで水を運ぶ際、運搬の負担を減らすための生活の知恵でもあったと考えられています。

2. 「青海波状文」の正体とその秘密

器の内側に残る同心円状の「青海波」は、意図的に描かれた装飾ではなく、成形に使用する道具の跡です。

  • あて木の年輪: 内側に当てる「あて木」は、杉、松、桜などの丸太の芯を焼いて作られます。この丸太の「年輪」の凹凸が、規則正しいリズムで外側から叩かれることによって、粘土の表面に転写されます。
  • 独特の文様: 重なり合った年輪の跡が、まるで海に広がる波のように見えることから「青海波状文」と呼ばれ、古唐津の鑑定においても重要なポイントの一つとなっています。
  • 外側の模様: ちなみに外側の叩き板には格子状の刻みが入れられていることが多く、叩いた直後は外側にも格子状の文様がつきますが、多くの場合、仕上げの段階でその跡は消されます。

3. 歴史的ルーツと技法の継承

この技法は、紀元前より中国南部で流行しており、朝鮮半島を経て日本へと伝わりました。

  • 大陸からの伝承: 道具の呼び名である「シュレー」「トキャー」は、韓国でも同様の言葉が使われており、この技法が大陸直伝であることを裏付けています。
  • 技法の再現: 一時期、この伝統は中断していましたが、人間国宝の12代中里太郎右衛門(無庵)が古窯跡を調査研究し、この「叩き技法」を現代に見事に再現させました。

結論

唐津焼の「叩き技法」とその「青海波状文」は、陶工の力強いリズムが土に刻み込まれた、いわば「製作の記憶」です。

これは、熟練の職人が使い込んだ道具と土が対話した証であり、完成した器を手に取ったとき、その軽やかさと内側の美しい文様は、四百年前から変わらぬ陶工の息遣いを感じさせてくれます。