唐津焼のぐい呑みを鑑賞する際、愛好家が必ずといっていいほど器を裏返して確認するのが「高台(こうだい)」です。 高台は単に器を支える台としての機能を超え、陶工の技術や作品への想いが最も顕著に現れる「器の裏の顔」とも称されます。
1. 技量が露わになる「迷いのない一太刀」
高台削りは、器の形を整える最終工程の一つであり、陶工の精神状態や習熟度がダイレクトに反映されます。
- 決断のドラマ: 熟練の陶工は、ロクロを回転させながら迷いのない潔いリズムで一気に高台を削り出します。 この「作為を超えた無心の手」から生まれる高台は、凛々しく、力強い表情(顔立ち)を器に与えます。
- 指跡というメッセージ: 釉掛けの際などに残る「指跡」は、通常は消されるものですが、あえて残されることがあります。 これは「しっかりと手をかけて作った」という陶工からの無言のメッセージであり、使い手はその跡に自分の指を重ねることで、陶工の息遣いや手クセを感じ取ることができます。
2. 唐津焼特有の「土味」の表現
唐津の土は砂気が混じった「ざんぐり」とした質感が特徴であり、この特性を高台削りでどう活かすかが陶工の腕の見せ所です。
- 縮緬皺(ちりめんじわ): 生乾きの粘土を、あえて切れ味の鈍い鉄製のカンナや竹箆(たけべら)で削ることで、表面に細かなささくれが生じます。, これを「縮緬皺」と呼び、作為のない素朴な力強さを象徴する重要な見どころとなります。,
- 独自の回転: 唐津焼の伝統では、成形(水引き)は右回りですが、削り出しの細工は「左回り」で行われるのが特徴です。, この逆回転の削り跡によって、器の内側や高台内には独特のロクロ目が刻まれます。
3. 個性と情緒を宿す多様な形状
削り方によって、高台には陶工の個性や遊び心が宿ります。
- 三日月高台: 削り出しの際に中心がわずかにずれることで、高台の縁(畳付)の幅が不均等になり、三日月形に見えることがあります。 これは単なる技術不足ではなく、「作り手のおおらかさ」や「洒落」として愛でられてきました。
- 竹の節と兜巾(ときん): 竹の節のようにがっしりと削り出された「竹の節高台」や、高台内の中央が山伏の帽子のように突起した「兜巾」など、力強い造形が器全体の姿を引き締めます。,,
4. 用の美を完成させる「引き算」の技
高台削りは、器の無駄な土を取り除いて「持ち重り」を最適化する作業でもあります。
- 軽さと安定の調和: 「陶工が八分作り、使い手が二分を補って器を育てる」という哲学において、手に持った時の適度な重みや、無釉の土肌が指先に馴染む感触は、この削りの工程で決まります。,
- 一期一会のドラマ: その時の土の硬さ、ロクロの調子、陶工の心のゆとりがすべて合致した瞬間にしか生まれない高台の表情は、二度と同じものは作れない「一期一会」の産物です。
このように、ぐい呑みの高台を眺めることは、「雄弁に語る陶工の背中を見つめること」に似ています。 口をつけた時の感触だけでなく、手のひらに伝わる削りの一太刀の跡から、名もなき職人が土と格闘し、無心に形を追い求めたドラマを読み取ることができるのです。
