陶芸における贋作の手法と、それを見破るための科学的・伝統的な鑑定方法について、包括的にご説明します。
陶芸における贋作は古陶磁器の世界に特に多く存在しており、国や時代、価格を問わず現在でも流通していると思います。贋作は金銭的利益を得ることを目的として行われる場合が多いです。
1. 陶芸における贋作の手法
贋作の手法は多岐にわたりますが、大きく分けて「始めから贋作として作られた焼き物」と、「真作を加工して価値を高める半真半贋の焼き物」があります。
1-1. 半真半贋の技法(本物の素材の加工)
真作を素材に加工を施すことで、まるで本物のように見せかける技法です。
二度焼(再焼成)
商品価値の低い作品(発掘品など、風化やカセが進んだもの)を再度高温で焼成し、欠点を補修して商品価値を高める手法です。
- 目的と効果: 釉を溶かし直し、光沢を増すことで、風化で白濁した釉面を良好にし、下絵(染付けなど)を鮮やかに蘇らせます。傷やニュウ(ひび)を目立たなくさせたり、新たな贋作よりも本物に近い胎土や造形を維持できます。
- 後絵(あとえ): 無地の陶磁器や絵が剥落した陶磁器に、鉄絵、染付け、赤絵(色絵)などを施し、再焼成することで商品価値を高める手法です。上手に焼成すれば、追加された絵付けも釉の下に取り込まれ、不自然さが感じられないとされていると思います。
擦り切り(すりきり)
割れなどの大きな傷がある焼き物の悪い部分を切り取り、補修して全く別の完品に仕上げる技法です。
- 例えば、把手の付いた水差しや、口縁が破損した大きな鉢を切り取り、徳利や抹茶茶碗として仕上げる例があります。
- 擦り切りを施した部分は、本来の形ではないものの、胎土、釉、文様、焼きは本物であるため、完全な贋作とは言えない面もあります。
1-2. 古色付けと人工風化の技法
新作や贋作を古陶磁器に見せかけ、価値を上げるために古色(古い色や風合い)を付けます。
- 古典的な古色の付け方: 紅茶などの液体に漬けて貫入部分に色を染み込ませる、松や杉の葉の煙で燻し(いぶし)ヤニを染み込ませる、泥や土を擦り付けて汚れを付ける。
- 人工風化:
- カセ(艶消し): 釉の表面に「ザラつき」を付けるため、フッ化(フッカ)水素などの薬品で釉の成分である珪酸分を溶かします。また、サンドペーパー(紙ヤスリ)で表面を擦り、釉が自然に風化した様に見せることもあります。
- 土銹(どしゅう): 数百〜数千年の間、地中に埋もれた際に土の成分と鉄分がこびりついた状態を再現するため、土に接着材やセメント類、鉄分を混ぜて作品に付着させます。
- 使用痕の再現:
- 長い年月の使用で生じる貫入の汚れ、口縁の割れや直しの痕などを「使用痕」と呼びますが、新作には出現しません。
- 人為的に「擦れや擦傷」を付けるために、紙ヤスリや砥石が用いられます。
- 意図的に「欠け」や「ニュウ」を作り出し、漆や金継ぎで補修して古陶に見せかけることもあります。
1-3. 銘や産地の詐称
- 銘(サイン)の偽装: 著名な作家の作品に似た既製品に、後からその作家の銘を彫り込んだり、偽銘を付けたりする方法。
- 銘の削除: 現代作家の作品の銘を削り取り、古陶磁器に見せかけて価値を高める方法。
- 箱書きの偽装: 贋作の作品に、権威者の偽の箱書きや鑑定書(極め書き)を添え、本物らしさを演出します。
- 産地の誤魔化し: 産地が知られていない窯場の作品を、土や釉が類似した著名な窯場の作品として流通させる(例:南蛮焼締陶を古備前として流通させる)。
2. 贋作を見破る科学的・伝統的鑑定方法
贋作を見破るには、考古学的な客観的データを得るための「科学的方法」と、経験に基づく「伝統的な技法」が併用されます。
2-1. 科学的方法(年代特定と元素分析)
陶磁器は無機物であるため、直接年代測定できない方法(C-14法)と、直接測定できる方法(TL法など)があります。
年代測定法
- 熱ルミネッセンス法(TL法):
- 陶磁器に含まれる石英や長石などの鉱物が、天然の放射線によって蓄積した電子エネルギーを測定する方法です。
- 陶磁器は必ず500℃以上で焼かれているため、その際の加熱で蓄積エネルギーがリセットされます。リセット後のエネルギー蓄積度合いを再加熱によって発する光の強度から測定することで、数百年〜数千年前の焼成年代を特定できます。
- ただし、贋作に予め人工的にX線を照射して検査を誤魔化した事例も報告されていると思います。
- 光ルミネッセンス法(OSL法):
- 鉱物結晶に光を照射した際に放出される光を利用して年代を測定します。
- 地中にあった発掘品や堆積物の直接的な年代測定が可能で、試料採取時に日光などの光を受けないように注意が必要です。
- C-14法(放射性炭素法)/ AMS法:
- 陶磁器自体は測定できませんが、共に出土した有機物(骨、木片、貝殻、炭化物)や、付随する箱や布類に含まれる炭素の崩壊比率を測定し、間接的に年代を推定します。
産地特定のための元素分析法
陶磁器の胎土や釉の構成元素を分析し、窯のあった土地の土(産地)を特定します。
- 蛍光X線分析法(XPF法): 試料にX線を当て、放出される元素特有のX線を分析し、胎土や釉の構成元素を知ることができます。
- 中性子放射化分析法(NAA法): 微量成分の分析に優れており、胎土の微量元素の構成を詳細に比較することで、胎土の産地を特定できます。この手法により、「古九谷」が肥前の有田産であると判明した例があります。
補修痕の検出
- 紫外線照射法(BL法/ブラックライト): 暗所でブラックライト(近紫外線)を当てると、一般的に塗料に含まれる蛍光物質が発光するため、塗料を使った共色直し(補修)の贋作を見破ることができます。
2-2. 伝統的・技術的鑑定法
鑑定家は、器形、文様、様式、制作方法、土の種類、焼きの違いなど、長年の経験から総合的に判断します。
経年変化の観察
- 自然風化と人工風化の区別: 真の発掘品に見られる「自然風化」と、贋作に見られる「人工風化」を見分けます。人工的な風化(紙ヤスリなどによる傷)は、自然の風化に比べて単調な傷になりがちです。
- 汚れと古色: 古色は簡単に付けることができるため、「古く見える物が古い物とは限らない」という心構えが重要です。むしろ、古さを感じさせない作品の方が真作の場合が多いとも言われていると思います。
- 二度焼きの痕跡:
- 釉に光沢があり真新しい感じがするにもかかわらず、人工的な古色付けがされている場合、二度焼きの疑いがあります。
- 小さな欠け(ホツ)が溶けた釉で埋められている、欠けの角が丸みを帯びている、細いニュウ(ひび)が釉の下に見えるなどの現象は、再焼成の証拠とされます。
- 再焼成により、土銹や手垢などの汚れが消失していることも判断材料です。
造形と様式の分析
- 「約束事」の確認: 茶陶の世界には「約束事」(その種類の作品が持つべき条件)がありますが、贋作は必ずこの約束を守るのに対し、本物は必ずしも約束を守っているとは限りません。例えば、唐津の贋作には必ず三日月高台や縮緬皺がありますが、本物の三日月高台は非常に稀です。
- 成形技術の確認: 中世の轆轤は回転が不安定だったため、作品には自然な「ゆがみ」が出ますが、現代の轆轤で正確に作られた後、故意に付けられた「ゆがみ」は不自然に感じられることがあります。
- 絵付けの筆致: 絵は誤魔化しのきかない部分です。贋作の絵付けは「ぎこちなく」熟練した職人が描いた感じがなく、当時の絵付けと微妙に雰囲気が異なることが多いです。織部などの絵付けは、現代人の感覚では真似するのが難しく、「わざとらしい」線になりがちです。
- 接合痕の確認: 袋物(壷、徳利類)の擦り切りを見破るには、口縁部や凹み部の繋がりに不自然さがないか、見込み部と外側の発色に違いがないかなどを確認します。
総合的な判断
合理的判断は、知識、経験、技能などを総合的に理解できる人にしかできませんが、「見当」や「カン」に頼らず、総合的な判断を重視することが重要とされていると思います。

