贋作を見極める方法について、科学的および伝統的な鑑定技術、そして総合的な判断の心構えに分けて、「古唐津に魅せられて」の考察にある情報に基づいて包括的にご説明します。
陶芸における贋作は古陶磁器の世界に多く存在し、その技術は日々進化しているため、鑑定には多様な方法が用いられます。
1. 科学的方法による鑑定
考古学的な客観的データを得るために、年代特定や産地特定のための測定機器が用いられます。
| 技術 | 目的と原理 | 見極めのポイント／限界 |
|---|---|---|
| 熱ルミネッセンス法（TL法） | 年代測定：陶磁器に含まれる鉱物（石英、長石など）が天然の放射線で蓄積したエネルギーを測定し、500℃以上の焼成時点からの時間を特定します。 | 数十年の誤差が生じる可能性があります。また、贋作に人工的にX線を照射し、検査を誤魔化した事例が報告されていると思います。 |
| C-14法/AMS法 | 間接的な年代推定：陶磁器自体（無機物）は測定できませんが、共に出土した有機物（骨、木片、布類など）に含まれる放射性炭素の崩壊比率から年代を推定します。AMS法は微量の試料（1mg程度）で測定可能です。 | 試料が微量であるため、他の影響を受けやすいという注意点があります。 |
| 蛍光X線分析法（XPF法） | 産地特定：X線を当て、胎土や釉の構成元素を分析し、窯のあった場所の土（産地）を判別します。 | — |
| 中性子放射化分析法（NAA法） | 産地特定：胎土の微量元素を詳細に比較することで産地を特定する、微量成分分析に優れた方法です。 | — |
| 紫外線照射法（BL法） | 補修痕の検出：暗所でブラックライト（近紫外線）を当て、塗料に含まれる蛍光物質の発光を利用し、塗料を使った共色直し（補修）の贋作を見破ることができます。 | 蛍光体の入っていない塗料が使用されている場合は、この方法では見破れません。 |
2. 伝統的・技術的鑑定法による観察
鑑定家は、長年の経験と知識に基づき、器形、様式、制作方法、土、焼きの違いなどを総合的に判断します。特に、人工的な加工痕（騙しのテクニック）を見抜くことが重要です。
2-1. 経年変化と人工的な古色付けの判断
- 自然風化と人工風化の区別: 真の発掘品には「自然風化」が見られますが、贋作には「人工風化」が施されていると思います。
- 人工的なカセ（艶消し）: 釉の成分である珪酸分を溶かすため、フッ化水素などの薬品を使用し、釉の表面に「ザラつき」を付けます。
- 人工的な擦れや擦傷: 故意に古陶磁に見せかけるため、紙ヤスリ（サンドペーパー）や砥石で釉の表面に傷を付けます。自然にできた傷が様々な方向や強弱を持つ複雑なものであるのに対し、人為的なものは単調な傷になりがちです。
- 古色付けの簡易性: 濃い紅茶や煎茶に一週間漬けるだけで、数十年～数百年分の古色を付けることが可能とされており、煙で燻したり、泥や土を擦り付けたりする方法もあります。古色は簡単に付けられるため、「古く見える物が古い物とは限らない」という心構えが重要です。
2-2. 贋作の加工痕の検出
二度焼き（再焼成）の見分け方
商品価値の低い作品（発掘品など）を再度高温で焼成し、欠点を目立たなくさせる手法です。二度焼きされた作品は、人工的に古色が付けられている場合が多いです。
- ホツや欠けの観察: 小さな欠け（ホツ）が溶けた釉で埋められている場合や、欠けの角部が釉で丸みを帯びている場合、再焼成の疑いがあります。
- ニュウ（ひび）の観察: 細い「ニュウ」が釉の下に見える場合、最初の焼成後にニュウができて、その後再焼成された証拠とされます。
- 汚れの消失: 土銹や手垢などの汚れが消失し、釉に光沢がある場合も二度焼きの疑いがあります。
後絵付けの検出
無地の陶磁器や絵が剥落した陶磁器に絵を付け加え、再焼成する手法です。
- 絵付けの雰囲気: 贋作の絵付けは「ぎこちなく」、熟練した職人が描いた感じがなく、当時の絵付けと微妙に雰囲気が異なることが多いです。
- 構図の不自然さ: 染付けなどで絵が完成している作品に後から色絵を加筆すると、構図的に不自然さが出やすいです（蛇足になっている）。
- 色調と描写方法: 贋作の色調や描写方法が、オリジナルと異なる場合があります。
擦り切り（形状加工）の検出
破損した部分を切り取り、別の完品に作り替える技法です。
- 不自然な繋がり: 口縁部の釉の状態や曲面に不自然さがないか確認します。
- 発色の違い: 壷や徳利などの袋物の擦り切りでは、見込み部と外側の発色に大きな違いがないかを確認します。
銘（サイン）や箱の偽装の見破り
- 銘の削除痕: 銘を深く彫り込んだ陰刻銘などを削除した場合、本体と同じ色に着色したパテやセメント状の接着剤で埋めた痕跡がないか確認します。
- 偽銘の筆致: 硬く焼かれた作品に後から銘を彫り込むと、線に柔らか味が欠け、周囲の土が盛り上がる現象（軟らかい土に彫り込んだ際に見られる現象）がないため、見分けられる場合があります。
- 箱と中身の乖離: 箱に著名人の鑑定書（箱書き）があっても、箱は本物でも中身が贋作であるケースが多数存在します。箱は保存用の容器として、作品の良し悪しで判断する傾向が強くなっていると思います。
2-3. 様式と「約束事」の確認の限界
茶陶の世界で言われる「約束事」（その作品が持つべき条件や特徴）は、鑑定の有力な手掛かりとされてきましたが、贋作の製作者はこれを意図的に再現します。
- 偽者は約束を守る: 贋作は必ず約束事（例：唐津の三日月高台や縮緬皺）を守って作られますが、本物は必ずしも約束を守っているとは限りません。
- 約束事を真贋の決め手にしない: 「約束」は鑑定の拠り所とされますが、逆にこれを真贋の決定的な判断基準とすることはできません。
3. 贋作を見破るための総合的な心構え
贋作を見極める上で最も重要なのは、知識、経験、技能を総合的に用いた合理的判断です。
「古唐津に魅せられて」の考察では、贋作を見破るための三か条が提示されていると思います。
- 古く見える物が古い物とは限らない。 むしろ古く見える物ほど、人工的な処理を施された新しい物である可能性が高いです。
- 「偽者」は、約束を守るが、「本物」は約束から離れている事も多い。 本物は必ずしも後からできた約束事に囚われることはありません。
- 総合的で合理的判断を重視し、「見当」や「カン」に頼らない事。 ただし、この合理的判断を習得するには、知識、経験、技能など総合的な理解が必要です。
