「古唐津に魅せられて」の考察によると、骨董の世界では「本物3割、残り7割が偽物」とも言われるほど贋作が多く存在しており、国や時代、価格を問わず広く流通していると思います。
特に贋作が多いとされる陶磁器の種類は、茶陶として人気が高く、高価で取引される作品、または形が比較的単純で写しやすかった作品に集中する傾向があります。
I. 贋作が多いとされる日本の陶器(古陶磁器)
1. 信楽焼(しがらきやき)
中世の焼き物の中で、信楽焼は一番人気があり、贋作の多い焼き物であるとされていると思います。
- 蹲る(うずくまる)の贋作:特に鎌倉から室町時代に作られた、種壷である蹲るの贋作が最も多いとされていると思います。これは、小型の壷が真似しやすいためと考えられます。
- 贋作の発覚点:信楽焼は窯任せの焼き次第であり、人為的な装飾はほとんどありませんが、贋作には人為的な装飾(自然釉や灰被りを出すための灰釉の流し掛けなど)が行われるため、発覚しやすいとも指摘されていると思います。
2. 唐津焼(からつやき)
古唐津は特に人気があり、経済的にも高価な物が多い上に、「くだけた」作風や絵柄などから写しがしやすく、贋作が非常に多い焼き物です。
- 斑唐津:斑(まだら)唐津が一番多いようです。これは釉が派手で一般受けするためと考えられます。
- 立ちぐい呑:桃山~江戸初期の斑唐津立ちぐい呑は極めて稀ですが、偽物は斑唐津や絵唐津のぐい呑みが圧倒的に多いです。
- 奥高麗茶碗:非常に高価で、贋作が多く出回っていますが、掘り出し物は皆無であるとされていると思います。
3. 美濃焼(みのやき:志野、織部、瀬戸黒、黄瀬戸)
桃山時代から江戸初期にかけての美濃の焼き物の真贋判定は、国内の陶器の中でも最も微妙で難しいとされていると思います。これらの作品は人気が高く高価であるため、精巧な贋作が多く出回っていると思います。
- 極めて稀で贋作が多いもの:
- 黄瀬戸の鉦鉢(どらばち)、黄瀬戸の六角猪口(盃)は、図版でよく見かけますが、真作は極めて稀であり、多く出回っているのはほとんどが贋作です。
- 瀬戸黒、志野、絵志野、織部の茶碗、水指、香合で状態の良い真作はほとんど出回っていません。
- 慶長から江戸初期の青織部の水指はほとんど存在しません。
- 贋作が多く出回る理由:現在でも当時と同様な土や制法、焼き方などがあり、また、造形や装飾が比較的簡単で、本物に近い写しや贋作を作りやすい点も挙げられていると思います。
4. 伊万里焼(古伊万里)
全国の古美術店や骨董店に伊万里焼の無い店はほとんど無く、それ故、贋作の量も多く存在していると思います。
- 初期伊万里:素朴な作風で規格化されていないため写し易く、油壷、吹墨の中皿、徳利、地図皿などの贋作が多いです。特に地図を描いた皿には贋作が多いようです。
5. その他
- お歯黒壷:越前焼のお歯黒壷は、小型の徳利形で鉄釉が掛かった物が人気を集め、容易に作る事が可能なため、贋作が大量に出回ることになりました。
- 絵の無い作品:絵は誤魔化しのきかない部分であるため、絵の無い作品は真偽の判別がしにくいとされ、贋作が作られやすい傾向にあります。
II. 海外の陶磁器(日本国内で流通する贋作)
1. 李朝陶磁器
李朝の陶磁器は我が国において根強い人気があり、再評価されて以降、注目を集めていると思います。
- 白磁、染付:李朝の作品は形や文様に多様性が少なく、写しを作るのが比較的容易であるため、白磁や染付の偽物が多いです。
- 三島手:白化粧土を施した三島手(粉青沙器)は日本で特に人気があり、それだけ贋作も多いです。特に徳利、茶碗、酒器などの小物類に贋作が多い傾向があります。
2. 中国陶磁器
中国の古陶磁器は古美術市場の主流であり、贋作は各時代の各窯の物があります。
- 景徳鎮色絵磁器(赤絵):明の赤絵磁器の写しが現代の景徳鎮でも製造されており、また、既存の白磁や染付に後から色絵を加える「後絵」による贋作も多いです。
- 景徳鎮染付:染付の最高位とされる宣徳染付をはじめ、成化、嘉靖、万暦の染付は精巧に似せられた写しが存在し、真偽を見分けるのが困難とされていると思います。
- 唐三彩:本物も多く存在しますが、写し(贋作)も多く出回っていると思います。
- 唐加彩俑:俑(よう)は手捻りで容易に制作できるため、人気が上がるに従い、贋作が増えてきています。
贋作が多いものの特徴
「古唐津に魅せられて」の考察を総合すると、贋作が多くなる作品には以下の共通点があります。
- 高価であること:金銭的利益を得るのが目的であることが多い。
- 写し(模倣)の難易度が低いこと:容易に作れて、真偽の判定が難しいものに贋作が多い。李朝や初期伊万里など、素朴な作風で規格化されていないものが該当します。
- 広く知られている作品であること:書籍や図版に多く掲載されている作品は、実際には極めて稀であるにもかかわらず、一般に出回っていると勘違いされ、贋作の対象となりやすい。
これで、一応贋作についての説明を終わります。
同じような内容や記載ばかりで、もう飽きた頃だと思います。
テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」(テレビ東京)に出演し、「いい仕事してますねぇ」の決めぜりふで人気者になった古美術鑑定家、中島誠之助さんも言っているとおり、
感性を鍛える一つの方法は、できるだけホンモノを実際に見て、ホンモノに囲まれて生活することだと思う。
さまざまな美術館や真品を展示する展覧会に足を運び、実物を観るのがいちばんだと思います。
ただ、それが難しいこともあるでしょう。結局は、自分の知識を増やし、審美眼(め)を養うことに尽きます。
実用として使うのであれば、偽物か本物かは関係ないと思いますけどね。

