贋作の目的と種類、そして古美術品に付随する箱や銘の偽装方法とは何か?

古唐津の魅力・陶芸の魅力 贋作
Charm of Old Karatsu and Ceramic Art
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陶芸における贋作の目的と種類、そして古美術品に付随する箱や銘の偽装方法について、「古唐津に魅せられて」の考察に基づき包括的にご説明します。

「開運!なんでも鑑定団」では、最近も偽物が多く鑑定されています。

テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」(テレビ東京)に出演し、「いい仕事してますねぇ」の決めぜりふで人気者になった古美術鑑定家、中島誠之助さんの記事から引用

「開運!なんでも鑑定団」の中島誠之助さんが考える「許されるニセモノ」とは:朝日新聞GLOBE+
テレビ番組「開運!なんでも鑑定団」の古美術鑑定家、中島誠之助さんが、美術品や骨董品の真贋を見抜くこつを語った。

「1億総骨董屋」になった現代
今も世の中には、ニセモノがあふれている。

例えば、昭和初期から昭和30年代にかけて、日本の経済を動かした人たちの多くが高価な茶道具を買い集めた。それらは今、重要文化財や一級の名品として美術館などに飾られているけど、その中には「怪しいな」「具合が悪いな」という品がたまにはある。

どれも技量的にはうますぎて見抜けない。でも、あの時代にはこの仕事はなかったはずだとか、この茶人とこの作者とのつながりはなかったはずだとか、歴史的な裏付けがとれないものは勉強していれば分かる。

ホンモノを見分けるうえで重要なのが、この歴史的な裏付けだ。

「開運!なんでも鑑定団」の仕事で30年以上、私はもう10万通に近い鑑定依頼のお便りに目を通してきた。ここでも歴史的な裏付けを勉強しているから、実際に品物を見なくても、手紙を読んだだけで、それがホンモノかニセモノかわかる。

なぜ、骨董品や美術品はニセモノがつくられるのか。

それは、「生産のきかない社会」だから。私が青年時代には「もう良いもの(ホンモノ)は残っていない」とよく言われた。明治時代の本を読んでも、同じことが書いてある。江戸時代の小話にも「このごろは良いものがない」という下りが出てくる。

つまり、常にホンモノの良い品というのはわずかで、しかも再生がきかない。その限られた品をみんなで奪い合うのだ。

だけど、商売のスジとして、もうけなくちゃいけない。仮に1000万円のホンモノを売って1割もうけても、利益は100万円。そんなホンモノに巡り合う機会なんてめったにない。だから、ニセモノを10万円でこしらえて、ホンモノと偽って100万円で売った方が効率よくもうけられる。こうしてニセモノが増えていく。

「許されるニセモノ」と「許されないニセモノ」がある、と私は思っている。

例えば、明治時代につくられた志野焼の茶碗があって、それが使い込まれているうちに良い味わいになってきた。「これは化けるぞ」と、桃山時代の茶碗だと言って50万円で売ったとする。もしホンモノなら5000万円はするから、買う方も疑心暗鬼だけど、欲望に満ちてるから買ってしまう。こういうのは、「笑えるニセモノ」だ。

感性を鍛える一つの方法は、できるだけホンモノを実際に見て、ホンモノに囲まれて生活することだと思う。

1. 贋作の目的

陶芸における贋作(騙し)が行われる主な目的は、金銭的利益を得ることです。

贋作は古陶磁器の世界に特に多く存在しており、国や時代、価格を問わず現在でも堂々と流通していると思います。贋作は、人を騙す意図(悪意)を持って行われる場合もあれば、結果的に騙してしまったという場合もありますが、ここで取り上げるのは主に技術的な事柄です。

2. 贋作の種類

贋作は、その製作や流通の過程によって主に以下の3種類に分類されます。

種類説明
始めから贋作として作られた焼き物古い時代に存在していたものの偽物はもちろん、現在作家の死亡から数十年後の作品まで、幅広い時代の偽物が含まれます。
半真半贋の焼き物真作(本物の作品)を素材として、加工を施したものです。本来の形(姿)から逸脱した加工がされているため、贋作と言えます。例えば、別の形に変えたり、絵を付け加えたり(後絵)する手法が該当します。
贋作ではない贋作流通過程や、伝世する間に、本来の産地や使用目的から逸脱してしまった物です。本来の産地から見ると贋作に見える作品です。多くの場合、より経済的に高価な名称や産地に変更されて流通します。

「写し(模倣)」と「贋作」の違い

「写し(模倣)」と「贋作」は異なります。

  • 写し/レプリカ: 縄文土器や埴輪などを古代色を付けて本物そっくりに作る場合でも、「レプリカ」として現代作であることを明記していれば、それは写しであり贋作ではありません。
  • 贋作: このレプリカを古代に作られた発掘品として発表し、販売目的で保管したり販売したりした場合、それは贋作となります。

3. 古美術品に付随する箱や銘の偽装方法

陶磁器に付随する「銘(サイン)」や「箱」「箱書き」は、作者の特定や歴史的価値を裏付ける有力な手段となるため、贋作者にとって絶好のアイテムとなります。

3-1. 銘(作者名/サイン)の偽装方法

銘(サイン)の偽装には、本物の銘を消す方法と、偽の銘を施す方法があります。

銘を消す方法

銘を消すのは、現代作家の作品の銘を消し、古陶磁器に見せかけて価値を高めることが目的です。

  1. 削り取る方法:
    • 信楽焼や備前焼などの無釉の焼き締め陶器の場合、上手く削り取り、周囲を擦り均す(すりならす)ことで銘を消せます。
    • 施釉陶器でも、施釉していない場所に銘があれば同様に削り取れます。
    • 透明釉が施釉された作品の呉須(コバルト)で描かれた銘は、上の釉を取り除いて削り取ることができ、その後、跡がわからないように古色を付けます。
  2. 銘を埋める方法:
    • 深く彫り込まれた陰刻(凹み)銘など削り取れない場合は、本体と同じ色に着色したパテやセメント状の接着剤で埋めます
    • 埋め込んだ周辺をよく擦り、不自然さを無くします。上手く処理された跡は、見破るのが困難です。

偽銘を施す方法

  1. 贋作に銘を付ける:
    • 最初から贋作として作られた作品には、本物に似せた銘が焼成前に付けられます。
  2. 既製品に銘を彫り込む:
    • 著名な作家の作品と似た既製の作品に、後からその作家の銘を書き加えて価値を上げる方法です。
    • ただし、硬く焼かれた作品に銘を彫り込むと、描いた線に柔らか味が欠け、注意すれば後から彫り込まれたことが見分けられる場合があると言いると思います。
    • 削り取られた跡をセメント状の接着剤で補修した上に、新たな銘を書き込めば、柔らかい線にする事も可能です。

3-2. 箱(共箱・箱書き)の偽装方法

古陶磁器を収める木箱や、それに付随する書付(箱書き)は、その作品が本物であることや、伝来の由来を証明するものとして重要視されます。

箱の偽装方法

  • 古い箱を仕入れて使う: 贋作を入れるために、古い箱を仕入れて「あて箱」や「あわせ箱」として使用します。
  • 古い箱を解体し再利用する: 古い箱を解体し、その古材を使って新たな箱を作ります。
  • 箱の加工: 大きすぎる箱を切り詰め、大きさを調整します。切り口に新旧の差が現れないよう、古色付けを施します。
  • 本物の箱に贋作を入れる: 一つの作品に対して、本物の箱が複数個存在する場合があります。そのため、箱は本物でも中身が偽者(贋作)であるケースが多数存在します

箱書きの偽装方法

箱書きは、通常、上蓋の内側に墨書され、落款、花押、印などが押されます。作者や茶の湯の宗匠、専門家などが行いますが、これにも偽装が行われます。

  • 筆跡の模倣: 作者や権威者の筆跡を真似た偽の箱書きが作られます。
  • 鑑定書の偽装: 贋作の作品に、権威者の偽の鑑定書や保証書(極め書き)を添えることで、本物らしさを演出します。
  • 流通過程での追加: 権威者に対して、本物の作品を見せて、用意した箱に箱書きをしてもらうことがありますが、その箱が後から贋作の流通に使われることがあります。

このため、古美術・骨董業界では、箱に惑わされず、作品の良し悪しで判断する傾向が強くなっていると思います。箱はあくまで保存用の容器として見られる風潮が強くなりました。