日本の古代から中世にかけての陶磁器生産において、土師器、須恵器、そして六古窯(特に言及のある窯)はそれぞれ異なる特徴と役割を持っていました。
1. 土師器(はじき)
特徴
- 脆弱性:須恵器(すえき)よりも脆いとされる焼き物です。
- 原料と質感:粘土のみで焼成されるため、脆弱で気孔のある粗質な質感を持ちます。叩くと土の音がし、多量の水分を吸収します。また、埴(赤土や粘土)を用いて作られたと考えられています。
- 焼成温度:通常、摂氏400〜500度から700度くらいの比較的低い温度で焼成されます。
- 色と形状:褐黄色を呈し、多くは鍋底式の丸い形状で高台がないものが多いです。
- 装飾:概して無文ですが、中にはわずかに刷毛目(はけめ)を施したものも存在します。
- 施釉の有無:施釉されたものとされないものがあります。
役割
- 名称の由来:土師器という名称は、「土師(はじ)」と呼ばれる古代の土器を作る職人が造る物、または埴輪(はにわ)や埴瓮(はにべ)などの略称であるとされています。
- 原始時代からの使用:人類の元始時代から簡単に造られた器であり、焼き物の中では科学的に見て最も劣等な部類に属するとも評されます。しかし、好事家が骨董的に賞玩する茶器などには、驚くほど高価なものもあります。
- 代表的な種類:古代の弥生式土器(やよいしきどき)や埴輪、埴瓮などがこの部類に属します。弥生式土器は「高天原土器」とも称されます。また、京都の楽焼(らくやき)、武蔵の今戸焼(いまどやき)、加賀の大樋焼(おおひやき)、あるいは瓦、焙烙(ほうろく)、焜炉(こんろ)なども土師器の種類に属します。
2. 須恵器(すえき)
須恵器は、中世陶器の基盤となった古代の焼き物です。
- 特徴:
- 陶土: 平野周辺の低い丘陵に露出する洪積層の粘土が用いられました。
- 成形: 轆轤(ろくろ)を用いた成形が特徴的です。
- 焼成: 初期には還元炎焼成が行われていました。
- 技術の継承: 中世陶器の製作技術、特に備前焼などは須恵器の製作技術を継承しています。
- 役割:
- 日常使いおよび祭祀用: 当初は「据ゑる物」としての実用的な意味合いから始まり、王朝時代から平安朝まで使われ続けました。
- 神事の器: 祝部土器(齋瓮、いわいべのうつわもの)は、神酒を醸す甕や祭神の酒器、あるいは神事の清器(きよきうつわ)として造られ、使用されました。
3. 六古窯(ろっこよう)
「六古窯」という名称そのものは資料には明示されていませんが、日本の主要な中世窯業地として、瀬戸、常滑、信楽、備前、丹波、越前といった窯が詳しく言及されており、これらが一般的に六古窯として知られています。
中世陶器(六古窯の共通的特徴)
- 陶土の転換: 須恵器が洪積層の粘土を用いたのに対し、中世に入ると窯の立地がより高い丘陵地の新三紀層の粘土へと転換し、より耐火度の高い土が求められるようになりました。これは大型の器物制作に適した強度が必要とされたためと考えられます。室町時代後期には、山土単味だけでなく田土を混ぜる窯が増えました。
- 成形技法の変化: 須恵器が轆轤成形であったのに対し、中世の壺類では粘土紐を巻き上げて基本形を作り、木で器面を調整する「はぎづくり」という成形法が主流となりました。ただし、室町後期には小形の壺類で水挽き轆轤成形も行われました。
- 焼成技法の変化: 初期は還元炎焼成でしたが、鎌倉時代中後期からは還元炎に近い酸化炎焼成へと変化が見られます。窯の構造も地下埋没式の窖窯から半窖窯式、さらには連房式登窯へと進化しました。
- 役割の変化: 古代末期から中世初期にかけては、農民用の日常雑器(壺、甕、擂鉢など)の生産が主でした。しかし、室町後期から桃山時代にかけて、茶の湯の流行に伴い、茶碗、水指、花生などの茶陶(茶の湯に用いられる陶器)の生産が各地で盛んになり、芸術的価値を持つ作品が多く生み出されました。中国や朝鮮の陶磁器の影響を受けつつも、独自の作風を発展させた点が特徴的です。
各窯ごとの特徴と役割
- 常滑窯(とこなめがま)
- 特徴:
- 陶土: 耐火度の低い黒土が用いられ、大型の壺・甕類の焼成に適していました。
- 立地: 海岸に近く、舟運による輸送に極めて便利でした。
- 製品: 大型壺・甕類が青森県から鹿児島県まで日本全域に運ばれ、雑器として広く使用されました。また、三筋文様や刻文を特徴とする高級品も生産され、経塚の経筒外容器や蔵骨器に用いられました。これらは中国宋代白磁四耳壺の模倣に端を発しつつも、独自の変化を遂げたものです。
- 役割: 農民向けの雑器を大量生産するとともに、中央貴族社会との結びつきを示す高級品も手がけました。
- 特徴:
- 渥美窯(あつみがま)
- 特徴:
- 立地: 常滑窯と同様に半島中央部に位置し、海岸に近く舟運に便利でした。
- 製品: 蓮弁文壺や刻文壺の産地として知られています。
- 役割: 瀬戸・常滑と並ぶ東海地方の中世大古窯跡群の一つです。常滑と並び、雑器から高級品まで生産しました。
- 特徴:
- 瀬戸窯(せとがま)と美濃窯(みのやき)
- 特徴:
- 陶土: 原料に恵まれた土地で、長い歴史と盛んな窯業が特徴です。
- 技術・製品(中世初期): 中国陶磁の影響を受け、灰釉を用いた製品が焼かれていました [前回の会話履歴]。印花、画花、貼花、櫛描文などの多様な装飾技法が使われ、灰釉と鉄釉が基本でした。
- 技術・製品(桃山時代): 安土・桃山時代に窯式・技法・釉種が大きく発達し、中国・朝鮮の模倣から独創的で芸術的な「純日本風」の様式を完成させました。瀬戸黒、志野焼、織部焼(黄瀬戸・織部黒など)といった新しい釉薬や、鉄砂で文様を描く技法が発明されました。轆轤作りの他に型作りの法も考案され、焼成中に鉄鉤で引き出す「引出し黒」の手法も生まれました。
- 窯: 地下埋没式の窖窯から半窖窯式を経て、連房式登窯が登場しました。
- 役割: 日本の製陶業の一大中心地であり、「瀬戸物」が陶磁器全般を指す言葉になるほどでした。特に桃山時代には、茶の湯の発展に伴い、茶入、茶碗、鉢、皿、向付など多様な茶事用器が創出され、その芸術性が高く評価されました。美濃は瀬戸に隣接し、陶業上は瀬戸焼に含まれるとされています。
- 特徴:
- 信楽窯(しがらきがま)
- 特徴:
- 陶土: 鉄分が少ない白い土で、焼成中に赤く焼き締まり、明るく穏和な景色を生み出す「雅陶」が特徴です。室町後期には田土を混ぜるようになりました。
- 成形: 粘土紐を巻き上げていく「はぎづくり」が用いられました。
- 作風: 作風は穏和で、茶陶においても強い個性を主張するものではありませんでした。
- 役割: 古くから壺の味わいが評価され、室町後期には茶人によって壺や擂鉢などが茶の湯の器として見立てられ、「紹鴎信楽」「利休信楽」といった茶陶が作られるようになりました。慶長年間には「新兵衛信楽」や織部好みのものも登場し、江戸時代には「信楽腰白茶壷」が有名になりました。
- 特徴:
- 備前窯(びぜんがま)
- 特徴:
- 陶土: 伊部周辺の花崗岩由来の耐火度の高い粘土が用いられ、室町後期には田土も混ぜられました。
- 成形: 壺類は底板を作り、粘土紐を巻き上げて胴継ぎを行い、箆削りや木調整で整えました。桃山時代からは壺甕類に「塗り土」が行われ、後に「伊部手」へと発展しました。
- 焼成: 還元炎焼成から酸化炎に近い焼成へ。窯変(古備前)や、藁を巻いて焼成する「緋襷(ひだすき)」といった独特の窯変景色が特徴です。
- 役割: 永禄年間には水指や建水が茶会記に登場し、侘茶の建水として圧倒的な人気を博しました。天正年間には花生も加わり、桃山風の作為的な作品も焼かれ、古田織部の全盛期には歪みや箆使いの激しい作風へと変化しました。
- 特徴:
- 丹波窯(たんばがま)
- 特徴:
- 陶土: 須恵器の陶土よりも耐火度の高い土が使われ、室町後期には田土も混ぜられました。
- 成形: 粘土紐を巻き上げていく「はぎづくり」が用いられました。
- 役割: 信楽とともに、西日本において瓷器系の製作技術を継承して中世窯業へ転換し、今日まで生産が継続している窯業地の一つです。
- 特徴:
- 越前窯(えちぜんがま)
- 特徴:
- 陶土: 花崗岩を基盤とする地帯の、耐火度が高くやや鉄分の多い砂質粘土が用いられました。寒冷地に適した土が選ばれ、室町後期には田土使用により黒褐色の器肌を呈するものが多いです。
- 成形: 轆轤と粘土紐による「はぎづくり」が行われ、器面は箆や刷毛で調整されました。壺甕・擂鉢には窯印が施されるのが特徴です。
- 施釉: 原則無釉ですが、初期には灰釉、室町後期には刷毛塗りの鉄釉も用いられました。
- 役割: 今日まで生産が継続している窯業地の一つであり、鎌倉後期から室町初期には日本海沿岸から北海道まで広く製品が流通し、珠洲窯と商圏を競いました。
- 特徴:
これらの窯業地は、それぞれが独自の地理的条件や技術的発展を背景に、日本の中世における陶磁器生産の多様性と進化を牽引しました。