柿右衛門解説(4)

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柿右衛門解説(4)

有田(ありた)の色絵磁器〔注:釉上で多色彩を焼き付ける磁器の総称〕が初期段階を脱し、明確な様式美を備えるのは、寛文(かんぶん)後期(1661–73)から延宝(えんぽう)(1673–81)にかけてと考えられます。さらに元禄(げんろく)(1688–1704)に向けて最盛期を迎え、その充実ぶりは当時ヨーロッパに輸出された作品群の水準からも裏づけられます。

いわゆる柿右衛門様式〔注:余白を生かした色絵構成を特徴とする有田の様式名〕は、色鍋島(いろなべしま)〔注:佐賀藩御用窯の上絵磁器〕と並び、有田の色絵展開の中で最も洗練された相貌を示しました。1670年代に白磁素地の純度が高まり、上絵技術も精緻化し、のちに乳白手(にごしで)〔注:やや温かみのある乳白色素地〕が完成します。文様は余白を強く意識する構成に洗練され、天和(てんな)・貞享(じょうきょう)から元禄の1680年代に頂点に達しました。

作例の一部には1670年代の段階で、柿右衛門様式へと開花する図様の萌芽が見られます。たとえば蓋物では太湖石(たいこせき)〔注:中国趣味の景物表現に用いる奇石意匠〕を中心に、菊や牡丹が左右へ枝を伸ばす構図が成立します。上絵の色はなお濃色で、文様の様式化は過渡的ながら、全体に調和感が現れ、基本構図が定着していきます。

やがて太湖石の上に鳥が宿る意匠が現れ、とりわけ二羽の配し方が様式の標識となります。大深鉢の作などはその典型で、当初は牡丹か菊の一種であった花文が、牡丹と菊の二種を前後に重ねる構成へ進化し、春秋の花鳥図としての様式化が明瞭になります。

完成期には乳白手の白が一段と冴え、口縁には鉄錆(てつさび)をめぐらせる縁紅(ふちべに)〔注:口縁部を鉄系顔料で褐色に仕上げる技法〕も確立します。太湖石を核に枝文が展開する図様は、絵画的雅趣を帯びて洗練され、さらに粟に鶉(うずら)など、土佐派風の写実を思わせる文様まで広がり、画工の筆は乳白手素地で多彩な表現を試みます。

この最盛期には、ヨーロッパの中国趣味(シノワズリ)の影響を受けた特注品も天和から元禄にかけて焼かれました。これらは輸出磁器の中でも特別注文に当たると見られ、当時の嗜好や市場の要請を如実に物語ります。

乳白手の色絵は原則として上絵のみの錦手(にしきで)〔注:釉上多色彩で仕上げる〕でしたが、染付下絵に上絵を重ねる染錦手(そめにしきで)〔注:下絵=コバルトの染付+上絵の併用〕が1670年代から次第に焼かれ、1680年代に完成を見ます。染錦手は、柿右衛門様式や古伊万里金襴手〔注:金彩を多用する豪華様式〕よりも早く、大川内山(おおかわちやま)の御用窯における色鍋島で完成した可能性が高く、その技術的波及で有田一般の水準も引き上げられました。元禄(1680–90年代)の代表作には、いわゆる柿右衛門様式が見られず、かつて渋右衛門手(しぶえもんで)〔注:元禄銘を持つ一群の様式名〕と称された連作が含まれますが、その特別生産の背景はなお不詳です。

彫刻的作品――人形などの像物――は輸出向けに作られたと見え、近年ヨーロッパからの帰来例が多く知られます。江戸時代には「伊万里の柿右衛門」の作として称揚された形跡があり、十七世紀当時、柿右衛門窯の像物が特に注目された事情がうかがえます。ただし出来には幅があり、その中でも「柿右衛門人形」は最上手と評しうる水準を保ちます。

以上の代表作群――柿右衛門様式および渋右衛門手――が、実際に柿右衛門窯を中心に生産されたかは確言できません。ただし十八世紀の酒井田窯で、乳白手風の様式をもつ鉢や向付(むこうづけ)〔注:会席の小鉢類〕が継続的に作られた事実は、同様式が「お家芸」として保持された可能性を示します。こうした伝統の継承を受け、近代には十二代・十三代によって乳白手の再興が試みられたのでしょう。

要約(300〜500字)
有田の色絵磁器は寛文後期〜延宝に成熟し、元禄に最盛期を迎えた。柿右衛門様式は色鍋島と並ぶ洗練を示し、1670年代に白素地の純化と上絵技術の高度化、乳白手の完成、余白を生かす構図の確立が進んだ。太湖石に二羽の鳥、牡丹・菊を併置する春秋図などが定型化し、縁紅や土佐派風の写実文も展開。天和〜元禄にはシノワズリ系の特注輸出品も生じた。上絵のみの錦手に加え、染付下絵と上絵を併用する染錦手が1680年代に完成し、その先行には大川内山の色鍋島が関与したとみられる。元禄銘を持つ渋右衛門手の背景は不詳だが、像物の輸出や高評価も確認できる。十八世紀の酒井田窯は乳白手風器を継続生産し、近代十二・十三代による再興へと連なる。

【関連用語】
- 柿右衛門様式:余白を生かす色絵構成と乳白手素地を基調とする有田の様式名。
- 乳白手(にごしで):温かみある乳白色の磁器素地。1670〜80年代に完成。
- 太湖石:奇石をモチーフにした中国趣味の意匠。花鳥図の中心に配される。
- 縁紅(ふちべに):口縁に鉄系顔料を巡らす仕上げ。完成期の特徴。
- 錦手:釉上の多色上絵のみで仕上げる技法・様式。
- 染錦手:染付下絵に上絵を重ねる技法。1680年代に完成。
- 色鍋島:大川内山の御用窯で焼かれた上絵磁器。高度な技術で知られる。
- 渋右衛門手:元禄銘を持つ一群の作。背景は未詳とされる。
- 向付(むこうづけ):会席の取り皿・小鉢の総称。十八世紀にも継続生産。
- シノワズリ:欧州の中国趣味。輸出特注品の図様に影響。
- 延宝・天和・貞享・元禄:17世紀後半〜18世紀初頭の元号。様式成熟と最盛期に対応。