瀬戸焼(7) 瀬戸の古窯

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瀬戸(せと)の古窯については、従来の文献で挙げる数に相違が見られます。便宜上、本稿では『をはりの花』に記録されている古窯名を列挙しますが、古窯の総数はこれに限られません。とりわけ古い瀬戸の窖窯(あながま)〔注:横穴式の単室窯〕は移動性が高く、窯跡は下掲以外にも数百箇所に及ぶと考えられます。

瀬戸古窯の名称(『をはりの花』に記録)

瓶子窯・祖母懐窯・朝日窯・夕日窯・椿窯・高原窯・禅長庵窯・源次窯・かにこ窯・古瀬戸窯・高塚窯・目細窯・大欠洞窯・馬ヶ城窯・四辻窯・蔦纒窯・銭瓶窯・山犬ヶ洞窯・反窯・山脇窯・猫田窯・南ヶ洞窯・長田窯・洞山窯・古林窯・保手窯・印所窯・地窯・細倉窯・白地窯・峯出窯・鷹場窯。

赤津古窯の名称(『をはりの花』に記録)

平窯・小長曾窯・藤阪窯・大洞窯・五葉窯・三ツ窯・窟山窯・横嶺窯・曾与木平窯・八幡平窯・真木嶺窯・帆立窯・秋窯・山中窯・志天木窯・内倉窯・長曾窯・梨木沢窯・川平窯・新狭窯・鳥嶺窯・踊平窯・笠松窯・城嶺窯・高橋窯・神座木平窯・小玉石窯・蜂窯・光窯・滝窯・長間根窯・南洞窯・山桑窯・菖蒲窯・白根窯・神田窯・呉窯。

主要古窯の時代と出土品(概略)

(一)朝日窯:室町時代末期に比定されます。白天目(はくてんもく)〔注:天目形に白釉を施した碗〕、黄瀬戸(きせと)小皿、椿手(つばきで)末期の作、茶入(ちゃいれ)、初期の絵志野(えしの)〔注:長石釉に鉄絵を施す志野様式〕などが出土します。

(二)桐畑窯:志野(しの)・織部(おりべ)・刷毛目(はけめ)を基調に、白掛(しろがけ)の上へ鉄絵(てつえ)〔注:酸化鉄顔料の絵付〕を施した作、あるいは掻き落とし(かきおとし)〔注:化粧土や釉を削って文様を出す技法〕、さらに「胆(たん)を落とす」作例〔注:銅系呈色材の用法を意図的に変化させた作と解される〕も見られます。

(三)古瀬戸菊畑窯:室町末期。破風窯手(はふがまで)〔注:口縁付近に釉のたまり・留まりが生じる作域〕の葉茶壺、茶入、仏器、水滴などの出土が報告されています。

(四)椿窯:椿窯を中心に、馬ヶ城・大橋源次・松留・茅原などの古窯群が連なり、鎌倉以前から室町までの長期に及ぶ活動が推定されます。古瀬戸・黄瀬戸・青瓷(せいじ)系が主で、建盞手(けんさんで)〔注:中国・建窯風の黒釉様式〕の茶碗、印花(いんか)文の壺、陶丸(とうがん)〔注:焼成した球状土玉〕、瓶子(へいし)、鴛鴦(おしどり)形の水滴、茶入、狛犬(こまいぬ)の破片、行基焼(ぎょうきやき)風の茶碗、俗に「椿天目」と称される作など、多彩な出土が知られます。

(五)瓶子窯:朝日窯と同時期に位置づけられます。古瀬戸釉の茶入、瓶子天目、胴や肩に印を押した瓶・壺、小皿、初期の絵瀬戸(えせと)〔注:鉄絵文様を施した瀬戸焼〕などが見つかっています。

(六)出椿窯:おおむね椿窯と同時代の活動期に属すると考えられます。詳細は今後の編年整備が望まれます。

(七)百日窯:印花文様の出土が指摘される窯で、器形・時期の精査は道半ばです。関連語として織田信長(おだ のぶなが)〔注:保護政策で瀬戸窯業を後押し〕、御深井焼(おふけやき)、織部焼、景正(かげまさ)〔注:加藤藤四郎景正〕、志野焼、瀬戸黒(せとぐろ)、加藤民吉(たみきち)、茶入、美濃焼(みのやき)などが周辺文脈に現れます。


要約(300〜500字)
瀬戸の古窯は文献により数え方が異なりますが、移動性の高い窖窯の性格上、実際の窯跡は『をはりの花』に記録された名称をはるかに上回ります。主要窯として、室町末の朝日窯(白天目・黄瀬戸小皿・絵志野初期など)、志野・織部・刷毛目を示す桐畑窯、破風窯手の葉茶壺等を出す古瀬戸菊畑窯、鎌倉以前から室町まで幅をもつ椿窯群(建盞手・印花壺・椿天目など)、朝日窯と並ぶ瓶子窯(古瀬戸釉茶入・絵瀬戸初期)が挙げられます。出椿窯・百日窯は位置づけが概略段階ながら、印花や器形の手がかりが蓄積中です。これらの古窯群は、志野・織部・黄瀬戸・瀬戸黒といった中世末〜桃山の多様な意匠・技法の母胎となり、のちの御深井焼や美濃焼の展開とも深く連関します。

【関連用語】

  • 窖窯(あながま):斜面に穿つ横穴式の単室窯。中世瀬戸の基本窯式。
  • 印花(いんか):刻印した型(施文原体)を押して文様を付す技法。
  • 白天目(はくてんもく):天目形に白釉を施した碗。室町末に作例。
  • 黄瀬戸(きせと):長石分の多い黄緑〜黄色系釉。桃山の代表的茶陶。
  • 志野(しの):長石釉に鉄絵を施す美濃系茶陶。初期絵志野が瀬戸古窯から出土。
  • 織部(おりべ):銅緑釉と自由な造形・文様を特徴とする桃山茶陶。
  • 破風窯手(はふがまで):口縁部に釉だまり・釉留まりを意匠化した作域名。
  • 建盞手(けんさんで):中国・建窯系の黒釉様式を指す呼称。
  • 行基焼(ぎょうきやき):古様を帯びる焼成様式の通称。瀬戸古窯に類例。
  • 絵瀬戸(えせと):鉄絵による文様を施した瀬戸の絵付陶。
  • 瀬戸黒(せとぐろ):引出し黒の技法で黒発色させた茶碗。
  • 御深井焼(おふけやき):尾張徳川家の御庭焼系。瀬戸周縁で展開。
  • 美濃焼(みのやき):東濃の古窯群の総称。志野・織部・黄瀬戸で著名。
  • 加藤民吉(かとう たみきち):江戸後期に磁器技法を導入した陶工。
  • 茶入(ちゃいれ):抹茶を収める小壺。瀬戸古窯の重要器種。