頴川(えいせん)による磁器化の転回
十八世紀後半、東山山麓の諸窯は作風の更新が鈍り停滞が指摘されますが、ここに新風を吹き込み京焼(きょうやき)を活性化したのが奥田頴川(おくだ えいせん, 1753–1811)で、彼の革新は京都では乾山(けんざん)が一時試みたにとどまった磁器(じき)〔注:高火度で焼成し緻密な白色素地を得るやきもの〕の本格焼成であったと位置づけられます。
当時の京都では仁清(にんせい)・乾山によって完成された色絵陶器〔注:本焼後に低温で上絵付する技法の総称〕こそ伝統と見なされ、肥前有田(ひぜん ありた)や加賀九谷(かが くたに)が十七世紀前半より染付(そめつけ)〔注:呉須=コバルトで描く青の下絵付〕・赤絵(あかえ)〔注:赤彩主体の上絵付〕の磁器を量産していたのに対し、京では中国趣味の請来・蒐玩が盛んになり交趾焼(こうちやき)・古赤絵金襴手(こあかえ きんらんで)・古染付(こそめつけ)・祥瑞(しょうずい)・呉州赤絵(ごしゅうあかえ)などが賞玩されながら、その倣作は十分に展開していませんでした。
頴川はこうした中国風陶磁の意匠と技法に着目し、これを学んで作品化することを志して中年に作陶へ転じ、伝統的彩釉陶に偏重していた京都に磁器的語法を導入することで、自身の主題を見事に果たしたと評価されます。
頴川は宝暦三年(1753)に生まれ、名を庸徳(ようとく)といい、祖先は明末清初の動乱を避け来日した陳氏(ちんし)で頴川の姓を称したと伝わります。若年期には洛東・建仁寺(けんにんじ)山内の清住院(せいじゅういん)に寄寓し、その後は大黒町(だいこくちょう)北入東側で大質商〔注:大規模な質屋経営〕を営む親族の奥田家に入り、五代目奥田茂右衛門(しげえもん)となって読書・文人趣味を好み、中国陶磁への関心を深めたことが作陶志向の背景にあったと推測されます。
陶法の習得経緯は詳らかでなく、一般には独学とされますが、有田・九谷系の職工を招いた可能性も否定できず、彼自身も現物研究を重ねたと考えられます。磁器化の達成時期も確定しがたいものの、「天明年製」の款記が伴う作例があるため、天明年間(1781–1789)頃には磁器様式を完成させていたとみられます。
頴川作と伝える様式は大略五種に整理でき、すなわち呉州赤絵・呉州染付〔注:呉須の青で下絵、赤彩や金彩を併用する明末風の語法〕・古染付、さらに素三彩(すさんさい)〔注:鉄・銅・マンガン系の三彩調を和様に転化〕と交趾焼の模作で、後二者は稀少、主力は前三者であり、なかでも呉州赤絵は本歌に迫る出来で、釉膚の冴えと速筆の軽妙な筆致が卓抜と評されます。
また器形に和様(わよう)を採る作例が見られることは、単なる模倣にとどまらぬ主体的解釈の証左であり、作品は市販を避けて自家用のほか、かつて寄寓した建仁寺塔頭への寄進や知友への贈答に限られたと伝わるため、明治維新までは市中で目にする機会が乏しかったといいます。富商としての余裕と風格を備えた頴川のもとには青木木米(あおき もくべい)・高橋道八(二代, のち仁阿弥〔じんあみ〕)らが集い、余技であったからこそ新技法を惜しみなく伝授したとも推測され、文化八年(1811)に五十九歳で没しました。
窯は三条粟田口(さんじょう あわたぐち)に築かれ、号を陸方山(りくほうざん)と称し、作例には染付・赤絵で「頴川」と楷書の銘を入れるもの、稀に「号陸方山」や「庸」の花押を記すもの、さらに無銘の作も少なくないことが知られます。
要約(300〜500字)
十八世紀後半、更新の滞った東山山麓の京焼に対し、奥田頴川は磁器焼成の本格導入で転機をもたらしました。京都では仁清・乾山の色絵陶器が主流でしたが、交趾焼・古染付・祥瑞・呉州赤絵など中国趣味の賞玩が高まる一方で倣作は乏しく、頴川はこれを主題化して中年より作陶に踏み出します。出自は帰化陳氏と伝え、建仁寺寄寓や大質商奥田家での教養・経済基盤を背景に、天明期までに磁器様式を完成。作風は呉州赤絵・呉州染付・古染付を主軸に素三彩・交趾写を加え、筆致と釉膚の妙で本歌に迫りました。作品は主に寺院寄進・知友贈答にとどまり、市価に出にくかったため希少性を帯び、門には木米・二代道八らが集い、新技法が継承されました。
【関連用語】
- 京焼:京都一帯で焼成された陶磁の総称。色絵・上絵の発達が顕著。
- 奥田頴川(陸方山):天明期に磁器語法を京に導入した名工。呉州写で名高い。
- 磁器:白色・緻密な素地を高火度で焼成したやきもの。染付や赤絵の基盤。
- 染付:呉須(コバルト)で下絵付する青の装飾法。磁器に典型。
- 赤絵:上絵の赤彩を主調とする技法。金彩併用で金襴手へ展開。
- 呉州赤絵:呉須の青に赤彩・金彩を重ねる明末風の華麗様式。
- 呉州染付:明末景徳鎮系の自由闊達な染付様式。
- 古染付:明末の民窯染付を指す日本側呼称。茶の湯で愛玩。
- 交趾焼(法花):盛上げ彩釉による鮮烈な色調の写し。
- 素三彩:三彩調色を素地見せで和様化した装飾語法。
- 祥瑞:明末の文様様式。日本で高く評価され、写しが盛ん。
- 青木木米:頴川門の俊才。煎茶具・交趾写で新風を起こす。
- 高橋道八(二代・仁阿弥):磁器焼成に秀で、多技に名作を残す。
- 建仁寺:京都五山の寺院。頴川が若年期に寄寓したと伝わる。
- 三条粟田口:頴川の窯所。号「陸方山」を用いた。

