織部黒 作品の中心は茶碗で、瀬戸黒の系譜に歪みを強調して沓形に作る傾向が強く、黒釉の力強い光沢を基調に、時に長石釉を差して景色を重ねる例も見られ、まれに茶入も作られるが、全体としては茶碗様式の展開が主題であり、登窯化以前の穴窯焼成に連なる肌理の緊張感を遺す作も含まれる。
黒織部 織部黒に装飾性を加味した系列で、黒釉地の一部を意図的に抜いて素地または白化粧を見せ、その白場に鉄絵具で文様を描き、上に長石土灰釉を重ねる二重掛けを多用し、黒場には長石釉を掛け返すなど、かけ分けと抜きの対比によって画面を構成し、主たる器種は茶碗であるが、登窯の普及に伴い量産化が進んだ。
(青)織部 一般に「織部」と称する群で、白い胎土に鉄絵具で文様を描き、長石土灰釉を全面に施したうえで要所に銅緑釉を差すのを常とし、手鉢・角鉢・向付・皿・徳利・香炉・香合など器種は多岐にわたり、窯ごとに作調が異なるが、元屋敷の作は構成・焼成ともに優品が多いと評価されている。
鳴海織部 白土と赤土を継ぎ合わせて成形し、白土部に緑釉、赤土部に白泥や鉄絵の線描を置いて長石土灰釉でまとめる複合技法を特色とし、手鉢・角鉢に典型が多く、轆轤挽きの沓茶碗や瓶形水指も作る。鮮やかな緑と淡い赤の対照が見どころで、語源は定かでないが鳴海絞に似た色調からの連想とする説がある。
赤織部 赤土胎に白泥と鉄絵の線描で文様を施し、部分的に緑釉を掛けて景色を作る系統で、向付や香合、茶碗など小品に好んで用いられ、赤土の素地感と緑釉の発色対比が軽妙な印象をもたらし、(青)織部の一手として食器群のアクセントを担う。
総織部 器面全体に緑釉を施す作で、釉下に線刻や印花で文様を置き、ところどころ釉を白く抜いて図柄を表す趣向もあり、皿・鉢・香炉・香合・猪口などが主で、茶碗は稀である。全面緑釉の量感と抜きの白場が強い装飾性を生み、食器・飾器の双方に展開した。
志野織部 志野と同一系譜の技法をとるが、登窯による量産体制下の作であるため、穴窯期の志野に見られる柔らかな釉肌や雅趣、火色の赤みは薄く、実用器を中心に鉢・向付に例が多い。十八世紀の享保年間には既に「シノオリベ」と称された記録が見える。
唐津織部 元屋敷や高根(たかね)などで唐津系の技法・質感に近い器を焼いたもので、唐津調の胎土と釉調に(青)織部の意匠語彙を重ねた趣があり、作例は少ないが地域交流の痕跡として注目される。
美濃伊賀 伊賀焼に似た作振りを美濃の元屋敷・大平(おおひら)などの窯で示した群で、器面の一部に白濁した長石釉を掛け、別部に鉄釉点を打つなど細かな技巧を凝らし、伊賀の荒々しさを美濃的な装飾設計に接合した折衷性が特徴である。
要約(其の五)
織部の類型は大きく織部黒・黒織部・(青)織部に分かれ、さらに鳴海織部・赤織部・総織部・志野織部・唐津織部・美濃伊賀などの分派が展開する。黒は歪みと黒釉の量感、(青)は鉄絵と緑釉の対比、鳴海や赤は胎土の違いと緑の差し、総織部は全面緑釉の装飾性に特色があり、志野・唐津・伊賀との接点が多様な地域的変奏を生んだ。
【関連用語】
- 織部:緑釉と大胆な造形の美濃様式。
- 志野:長石釉と鉄絵文の美濃焼。
- 黄瀬戸:黄褐色釉の美濃焼。
- 唐津:佐賀の陶器。桃山期から茶陶として人気。
- 美濃:志野・織部・黄瀬戸を生んだ産地。
- 緑釉:銅を含む鉛釉の緑色釉。


