慶長から元和にかけて美濃の窯で焼かれた織部焼は量・種類ともに膨大で、織部黒・黒織部・(青)織部の三系列を基軸に、花入・茶入・香合・茶碗・燭台・大小の皿鉢・向付など多様な器形と文様が展開し、とても一個人の好みだけで把握できる範囲を超え、産業的基盤のうえに集団的な陶工群が応答した成果として理解すべき性格をもつ。
黒織部と(青)織部は、黒釉と緑釉という釉薬の差こそあれ、釉のかけ分けで地を抜き、そこへ鉄絵で図柄を置くという画面構成に共通原理があり、意匠は奔放でありながら空間の取り方は秩序的で、茶の湯の器に求められた遊びと機能の均衡を独特の造形言語で結実させている。
一地方の窯場全体が共有テーマに基づいて制作しうるのは、有力な窯大将が一定の作風を統制し、需要者の注文を集約していたからであり、その需要者側の頂点に古田織部が位置したと推測される。換言すれば「織部好み」というテーマが提示され、個々の陶工がその枠内で巧みに工夫し、競い合うことで多様性と統一感が同居する生産体制が成立したのである。
要約(其の参)
織部焼は慶長〜元和期の美濃で大量多品種に生産された集団制作の所産で、織部黒・黒織部・(青)織部を核に器形と文様が多岐に及ぶ。黒と緑の釉をかけ分け、鉄絵で意匠を施す共通原理が貫かれ、窯大将の統制と大口需要の存在が作風を束ねた。頂点に古田織部がいたとみられ、統一的テーマのもとに多様な作が生まれた。
【関連用語】
- 織部:古田織部に由来する美濃焼の様式。緑釉と大胆な形が特徴。
- 美濃:志野・織部・黄瀬戸を生んだ産地。
- 緑釉:鉛釉に銅を加えた緑色釉。奈良時代に伝来。
- 灰釉:木灰を溶剤とする自然釉。

